日本と世界の歴史の悲劇の極致である「原爆」の歴史を最初に学ぶのは、何のために歴史を学ぶのか、何のために生きるのかを高校生に問いかけるためである。日本史を学ぶ上で、被害だけでなく加害や抵抗の歴史、現代の日本と世界との関係も、年間を通して考える授業にするが、最後は原爆(核兵器)につながってくるので、やはり最初の授業は「原爆」とする。さらに、原発事故による放射能被害と向き合う今こそ、広島・長崎の原爆は必要な学習テーマである。原爆は優れた映像教材がそろっている。ビデオ教材活用例として以下の授業プランを参考にして欲しい。
1時間目は、歴史はだれが作るのか、歴史はだれが残すのかを考える。ヒロシマの原爆瓦(写真)を配って何かを考える。勝者による歴史の隠ぺいとねつ造について考える。
2時間目は、被爆者が自らの記憶を歴史に残すために、写真が3枚しか残っていない被爆当日の「原爆の絵」を描き、「歴史をつづる権利」(ユネスコ学習権宣言)を実践している「原爆の絵 市民が残すヒロシマの記録」を観る。
3時間目は、長崎原爆の被害の実写映像とともに、アメリカが言論統制と世論操作により原爆の実態や事実を隠し、被爆者への無理解と偏見が生まれたことを描いた「長崎の子・映像の記憶 原子雲の下に生きて」を観る。
4時間目は、背中を真っ赤に焼かれ、60年前の自身のカラー写真を名刺に印刷し、核廃絶を世界に訴え続ける谷口稜曄さんを描いた「赤い背中 原爆を背負い続けた60年」を観る。
この順に観ることにより、被爆者がなぜ「原爆の絵」を描くのか、アメリカがなぜ「映像の記憶」を隠そうとしたか、被爆者がどのように行動しているのかを系統的に学ぶことができる。
5時間目は、原爆を日本に投下するアメリカの戦略の変遷を講義形式で学ぶ。
6時間目は、広島、長崎に続く被ばくとなったビキニ事件を描いた映画「第五福竜丸」を観る。
7時間目は、ビキニ事件を契機に原水禁運動が始まる経過を追った「3000万の署名 大国を揺るがす」を観る。
8時間目は、自国民をも人体実験にした核開発の歴史を描いた「検証!核兵器の闇」を観る。
前近代と近現代の授業の概要
9時間目以降は前近代を学ぶ。階級・国家・戦争のなかった原始から、私有財産の発生と古代天皇制の確立、班田農民の支配と抵抗、荘園と武士の発生、惣村の形成、土一揆・国一揆・一向一揆、検地と刀狩りによる兵農分離、朝鮮出兵、幕藩体制と百姓一揆などを学ぶ。2単位の今年は講義形式で4時間。4単位の場合はビデオ学習や調べ学習を入れて8時間程度実施する。前近代の最後に百姓一揆を描いた「郡上一揆」のダイジェストを2回に分けて観る。
近代は、ペリー来航、幕府滅亡、明治の工業化の推進とその矛盾、日清・日露戦争を経て韓国併合の経過を考える。秩父事件を描いた「草の乱」、足尾鉱毒事件と闘った「田中正造」、を学び、朝鮮人マラソンランナー「孫基禎」を観る。労働運動や社会主義運動の始まりと大逆事件による弾圧、米騒動を機に広がった大正デモクラシーの動き、普通選挙法と治安維持法の制定を学び、第1回普通選挙で当選しながら治安維持法の改悪に反対して暗殺された無産政党代議士の山本宣治を描いた「武器なき斗い」を観る。
満州事変から日中戦争、アジア太平洋戦争へとつながる15年戦争を学び、中国への侵略戦争の経過と日本軍の実態、その中での反戦運動を描く「戦争と人間」を観る。中国戦線で日本軍が使用した毒ガス作戦の実態と東京裁判で免責した過程に迫る「裁かれなかった毒ガス作戦」を観る。
日本敗戦後の米軍占領と民主化の過程を学び、憲法研究会が現行憲法につながる草案を創った「焼け跡から生まれた憲法草案」を観る。朝鮮戦争と再軍備、サンフランシスコ講和条約によりアメリカの世界戦略に組み込まれていく戦後日本、基地反対闘争や安保闘争の動きを学び、世界最強のアメリカ軍がベトナム戦争に敗北する経過を描いた「ベトナムへの衝撃」、ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤のダイオキシン汚染が今も続いていることを描いた「枯れ葉剤が残したもの」「花はどこへいった」を観る。
安保条約下の日本の基地問題を描いた「どうするアンポ」、湾岸戦争、イラク戦争で使われた劣化ウラン弾の被害を描いた「劣化ウランの傷跡」「イラク 戦場からの告発」、アフガン戦争などで使われたクラスター爆弾や無人攻撃機プレデターなどの現代の最新兵器の残虐性を描いた「GOBAKU」を観る。